「移動祝祭商店街 まぼろし編」活動アーカイブ#1

2020.11.1

「移動祝祭商店街 まぼろし編」っていったい何?

4人の舞台美術家が集まった「セノ派」によるプログラム「移動祝祭商店街 まぼろし編」が、ついにスタートしました。ウェブサイトの情報をたよりにひとりで街巡りを楽しむものから、映像を鑑賞するものまで、現在公開されている4つの企画は多種多様。この記事では、それぞれの企画がいったいどんな内容で、どのように鑑賞・体験できるのかご紹介していきます。

 

「その旅の旅の旅」の手引

まずひとつめは、杉山至チームによる「その旅の旅の旅」。正岡子規の「旅の旅の旅」という紀行文から着想を得たこのプログラムは、ゲストアーティストが豊島区内をめぐる旅のなかで発見した景色や情景の痕跡をたどりながら、参加者自身が新たな旅を紡いでいくものです。

1: 誰かの「旅」をたどる

ゲストアーティストとして本プログラムに参加するのは、佐藤文香(俳句作家)、とくさしけんご(作曲家)、牛川紀政(音響家)、阿部健一(ドラマトゥルク)、杉山至(セノグラファー)、山内健司(俳優)の6名。特設ウェブサイトに公開されている「鳥瞰図」には、彼/彼女たちが豊島区内を“旅”するなかで見つけたもの=「景」が、俳句や音声などさまざまなかたちでマッピングされていきます。

参加者はまず「旅人48景」と題されたアーティストらの痕跡やモデルルートをたよりに、街へ飛び出します。サイト上で見た「景」が生まれた場所へ実際に足を運ぶことで、アーティストらの“旅”を追体験できるかもしれませんし、彼/彼女らとはまた異なった景色を見られるかもしれません。ウェブサイト上に公開された「景」にはコメントもできるため、感想や体験談など、あなたの“旅”の記録を残すのもいいでしょう。

2: 自分の「景」を投稿する

このプログラムの特徴は、アーティストだけでなく参加者自身が新たな「景」を投稿できることです。豊島区内各所を歩きながらあなたの目線や感度が捉えた「景」は、写真やイラスト、音声、テキストなどさまざまなかたちで投稿可能。ウェブサイト上のフォームから投稿された「景」は鳥瞰図へとマッピングされ、また新たな参加者の“旅”の手がかりとなってくれるはずです。たくさんの人の旅がその旅の旅の旅の…と重なっていくことで、このプログラムは時間を越えた景色を立ち上げていきます。

「その旅の旅の旅」はこちら

 


「Roofing the Roof with a Roof」の手引

ふたつめのプログラムは、坂本遼チームの「Roofing the Roof with a Roof」。落合南長崎エリアに建てられたとある建物の「屋上」を舞台とする本プログラムは、本ウェブサイト上で公開される映像を鑑賞しながら、どこかにある屋上を想起していきます。

1: 映像を鑑賞する

本プログラムのメインパートとなる映像は、11月初旬に公開が予定されています。現在公開されている予告編を見ればわかるとおり、映像が捉えるのは屋上に浮かぶとある部屋。ダイニングやキッチン、リビングなど屋上につくられた生活空間のなかで、さまざまな生活のシーンが“上演”されてゆきます。

くわえてこの本編には、屋上につくられた「客席」でこの舞台を鑑賞する「観客」の様子も映されています。これは単に屋上で上演された演劇作品を楽しませるものではなく、その上演を観ている観客の姿をさらに観ることで、目の前にただ広がっている景色の存在に気づかせるものでもあるのです。

2: 屋上を鑑賞する

11月初旬の本編公開に向け、本ウェブサイトではすでに舞台となった屋上を捉えた定点観測写真が公開されています。明け方の屋上から真夜中の屋上まで、さまざまな日のバラバラな瞬間を捉えた写真は、通常は人が入れないこの屋上がたしかに存在していること、そこからまちを望む景色が開けていることを明らかにします。

くわえて各写真には、プロジェクトメンバーの清水友輔が選定した、思想家たちのテキストが散りばめられています。メルロ=ポンティやウィトゲンシュタインなど、幾人かの哲学者が記した「風景」にまつわる言葉は、わたしたちの知らない「風景」を教えてくれるかもしれません。

「Roofing the Roof with a Roof」はこちら

 


「みんなの総意としての祝祭とは」の手引

佐々木文美チームによるプログラム「みんなの総意としての祝祭とは」は、ここまでご紹介したふたつのプログラムとは異なり、実際に南大塚の商店街へ足を運ばなければ体験することができません。すでに特設サイトではいくつかのコンテンツが公開されていますが、これらはほとんど“ダミー”なのだそうです。

1: 顔ハメパネルを見つける

このプログラムの鍵となるのは、11月1日以降に南大塚の商店街に設置される「顔ハメパネル」の存在です。この顔ハメパネルに付されているのが、謎の「QRコード」。観光客のような気分でパネルに顔をはめて写真を撮ろうとすると、同時にQRコードがスキャンされ、その場に来なければ鑑賞できない映像へとアクセスできるのです。

2: 映像を鑑賞する

QRコードからアクセスできる映像は、商店街の人々が想像する「祝祭」の光景をもとにつくられたもの。ひとつの場所に集まってお祭りを開くことが難しい現在、本プログラムは空想の祝祭を重ねあわせ、鑑賞者がそれぞれにアクセスしていくことで、鑑賞者の頭のなかに「みんなの総意としての祝祭」を立ち上げます。11月1日から設置されるパネルは、10日までかけて少しずつ増えていきます。全部で7つのパネルをめぐりながら、わたしたちは「みんなの総意としての祝祭」を鑑賞するのです。このプログラムの特徴は、現地に行かなければできない体験がたくさん用意されていること。まずは大塚へと繰り出し、顔ハメパネルを見つけにいきましょう。

「みんなの総意としての祝祭とは」はこちら

 


「眺望的ナル気配」の手引

中村友美チームによる「眺望的ナル気配」は、商店街のリサーチをもとにリアルとフィクションが連なるまちの「模型」を中心に据えたプログラム。池袋本町の人々から自分にとっての「原風景」や「祝祭」の記憶についてアンケートを取り、何人もの人たちのバラバラな記憶をつなぎ合わせて「模型」として再構成しています。

1: 模型のスライドショーを観劇する

本プログラムは、特設サイト上で公開されるスライドショーと映像を鑑賞するもの。特設ウェブサイト上では10月の会期スタートから11月初めまでにかけて、「通過」「眺望」「ハレとケ」など人々の記憶と現在からすくい上げたキーワードから6つのスライドショーが公開されていきます。

「氷川神社」や「富士塚」など実在する場所の曖昧な記憶を手がかりにつくられた模型のスライドショーを通じて、鑑賞者は架空のまちのなかを歩いていくようにして、商店街の人々の原風景や祝祭の景色を辿っていくのかもしれません。

2: 映像を鑑賞する

F/Tの会期終了日前日となる11月14日には、本ウェブサイト上で映像が公開されます。6つのキーワードから再編成されるようにしてつくられた架空のまちと、その模型。それらをめぐる映像が、リアルとフィクションを行き来するようにして新たな祝祭の景色を立ち上げていくでしょう。

「眺望的ナル気配」はこちら

 


「まぼろしの景」をさがして

「移動祝祭商店街 まぼろし編」は、以上4つのプログラムから構成されています。スマホを片手にひとりでまちのなかを歩いてみるもよし、自分の部屋から本ウェブサイトにアクセスして映像を観るもよし。豊島区内の商店街を舞台につくられた4つのプログラムは、さまざまなかたちであなたがこれまで観たことのなかった景色を見せてくれるはずです。

セノ派は「舞台美術」を意味する言葉「セノグラフィー(scenography)」を名前の由来としているとおり、舞台美術やシーン(scene)、景(色)を通じて都市とわたしたちの関係性を拡張しようとしてきました。4つのプログラムを通じて「まぼろしの景」を観たあなたは、これまでと違ったふうにまちの景色が見えるようになっているかもしれません。

「移動祝祭商店街 まぼろし編」は、フェスティバル/トーキョー20閉幕の11月15日までかけて順次各プログラムが新たなコンテンツを公開していきます。本ウェブサイトを起点に、ぜひ「移動祝祭商店街」を訪れてみてください。

 

テキスト:もてスリム