谷端川遡行 1 『区境』

旅人:山内健司

谷端川遡行トレイルランニング

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谷端川トレイルランニング ルート図

旅人より

豊島区をS字型に貫流する、今はもう無い「谷端川」。ずーっと昔からこの土地の人々の暮らしは谷端川の凹凸に導かれて形づくられました。その流域の人々の記憶がぎっしりと積もった、母なる川です。

「谷端川遡行」では、道路も建物も透視して、地形の凹凸に導かれるがままに川を遡りました。流域には今はもう無い、記憶の中にだけある橋がそこかしこにあります。

例えば旅の途上、視界の端に一瞬映った、ベランダの向こうの部屋の空気が、不意打ちのように私の胸を射抜くことがあります。あそこに暮らしている自分は、どんな仕事をして、どんな暮らしをしてるんだろう。

それは、旅をする私の身体と、土地に積もった記憶が交差して、起動した一瞬の出来事です。出来事はみな、橋のたもとで起きました。

 

参考文献:『旧谷端川の橋の跡を探る』(豊島区立郷土資料館友の会, 1999)

 

※ ※ ※

「あのねここにね川があったんだよね、ほんとほんと。谷端川って川。いま立ってるここ、文京区と豊島区の区境なんだけど、あの、左のトラックの向こうにちょろっと白い柵が見えてるでしょ、あのあたりがほんとの境目。

で、今、だから下流から上流方向に向いてるんだよね。ここから谷端川の源流まで8.2キロ。源流は有楽町線の千川駅の粟島神社ってとこ。川はなんとほぼ全部道になってるからね、だから全部の川の上を走れるんだよね。

あのさ、でね、提案なんだけど、この川を全部走ってみませんか。ジョギング? ランニング? 谷端川の跡、つまりこれがほんとのトレイルランニング。あれだよ、この先ずーっと、右と左を必ず見てみて、かならず両方とも微妙な登り坂になってるから。川だからね。地形は嘘つかない。でね走りきった時にね、きっとこの街に、なんか不思議な所有感みたいなのが持ててると思うんだよね。小学校の時の学区みたいな、自分はこの街を自分の手足のように知っている、そんな根拠のない無敵な感じ。まずさ、体でさ、この街を掴み取らない? ビルも道路も取っ払った豊島区の母なる川、谷端川」

 

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旅人プロフィール

山内健司

俳優。1984年より劇団青年団に参加。90年代以降の平田オリザによる「現代口語演劇」作品のほとんどに出演。フランス、韓国との国際共同制作に多数参加。街や人と直接関わる、劇場の外での演劇にも力をいれる。平成22年度文化庁文化交流使として全編仏語一人芝居『舌切り雀』をヨーロッパ各地の小学校で単身上演。