谷端川遡行 2 『松浦橋』

旅人:山内健司

今待ってる時間と、あの時待ってる時間と、区別つかない

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旅人より

豊島区をS字型に貫流する、今はもう無い「谷端川」。ずーっと昔からこの土地の人々の暮らしは谷端川の凹凸に導かれて形づくられました。その流域の人々の記憶がぎっしりと積もった、母なる川です。

「谷端川遡行」では、道路も建物も透視して、地形の凹凸に導かれるがままに川を遡りました。流域には今はもう無い、記憶の中にだけある橋がそこかしこにあります。

例えば旅の途上、視界の端に一瞬映った、ベランダの向こうの部屋の空気が、不意打ちのように私の胸を射抜くことがあります。あそこに暮らしている自分は、どんな仕事をして、どんな暮らしをしてるんだろう。

それは、旅をする私の身体と、土地に積もった記憶が交差して、起動した一瞬の出来事です。出来事はみな、橋のたもとで起きました。

 

参考文献:『旧谷端川の橋の跡を探る』(豊島区立郷土資料館友の会, 1999)

 

※ ※ ※

「俺さ、前にもこの時計を見てたことあんだよな。こうやってこの時計じーっと見てたことあんだよ。

この桜がさ、記憶の中の桜よりなんか大きくなってない? てか樹皮が若々しくなくない?

秋の夕方、高校生んとき、俺今日もがんばった、もうすぐに夜になっちゃう。

あーでも、時間つぶしたい。なんかどっかで時間つぶしたい。

あー考えなきゃ、ほんと、ちゃんと考えなきゃ。

なんかいろいろ全部考えなきゃで、ふぁーってなっちゃうんだよな。

この時計の下でさ、待ち合わせたよね。

『この時計なんか大きくない、これすごい時間主張するよね』とか言って。

今ここにもう1回立って、誰かを待つってのをそおーっとやってみよっかな。

あれ、この桜がさ、すごい時間たったら今より大きくなってるって、想像できないよね。

今待ってる時間と、あの時待ってる時間と、区別つかない」

 

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旅人プロフィール

山内健司

俳優。1984年より劇団青年団に参加。90年代以降の平田オリザによる「現代口語演劇」作品のほとんどに出演。フランス、韓国との国際共同制作に多数参加。街や人と直接関わる、劇場の外での演劇にも力をいれる。平成22年度文化庁文化交流使として全編仏語一人芝居『舌切り雀』をヨーロッパ各地の小学校で単身上演。