谷端川遡行 6 『境橋』

旅人:山内健司

ここらへん、全部田んぼ

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旅人より

豊島区をS字型に貫流する、今はもう無い「谷端川」。ずーっと昔からこの土地の人々の暮らしは谷端川の凹凸に導かれて形づくられました。その流域の人々の記憶がぎっしりと積もった、母なる川です。

「谷端川遡行」では、道路も建物も透視して、地形の凹凸に導かれるがままに川を遡りました。流域には今はもう無い、記憶の中にだけある橋がそこかしこにあります。

例えば旅の途上、視界の端に一瞬映った、ベランダの向こうの部屋の空気が、不意打ちのように私の胸を射抜くことがあります。あそこに暮らしている自分は、どんな仕事をして、どんな暮らしをしてるんだろう。

それは、旅をする私の身体と、土地に積もった記憶が交差して、起動した一瞬の出来事です。出来事はみな、橋のたもとで起きました。

 

参考文献:『旧谷端川の橋の跡を探る』(豊島区立郷土資料館友の会, 1999)

 

※ ※ ※

「ちょっと待ってよ、なにこれ、ここさあ全部田んぼだったんだよ。ねえ見てよそこの左、明らかに田んぼだった感じでしょ。ここら辺はね全部たんぼたんぼたんぼ。あと用水路用水路用水路。俺が生まれるずーっと前から、何百年もずーっと田んぼだったんだよ。えーなにこれいつからこうなったの。てかなんで川がこんなことになってんの。

この川にさ、そこの橋から、すごい小さい紙の船つくって、手紙つけて流したことがあんだよ。この川が小石川から御茶ノ水を横切って隅田川に行って江戸湾に行くことも知ってたしね。たしか3通、船にのせて。一番しっかりした船には『みんなが健康でありますように』って。ちょっとスピードが出そうな船には『**ちゃん』って名前だけ。最初に作ったちょっとガタガタした船には『みんなが幸せに働ける息苦しくない村をつくります。僕はえらくなります。えらくなっていい世の中にします』って」

 

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旅人プロフィール

山内健司

俳優。1984年より劇団青年団に参加。90年代以降の平田オリザによる「現代口語演劇」作品のほとんどに出演。フランス、韓国との国際共同制作に多数参加。街や人と直接関わる、劇場の外での演劇にも力をいれる。平成22年度文化庁文化交流使として全編仏語一人芝居『舌切り雀』をヨーロッパ各地の小学校で単身上演。